書家 小野﨑啓太

ゆうじ

2017.12.25

ゆうじ

2015年 個展時に発表した超大作(360cm×480cm)

制作は2008年。およそ七年の間眠らせての発表となった。

「ゆうじ」と題したのは弟の名前から。 制作の前年、大きな事故を起こした弟。

奇跡的にも、今も元気で働く弟だが、大きな傷と共に生きる運命を持った。

この作は、これまでも含めた全ての作品の中で、一番、書くことに迫られて書いたものと言える。 自分の中で、書く意味をしっかり捉えて書くことができることは、ほんのわずかだ。むしろ書く意味などない方が、自分にとっては書きやすい。意味に捕らわれることほど、制作を難しくさせるものはないのだ。

制作は弟のため、とも言えないが、様々なこだわりや考えとの決別でもあった。書を求めるのではなく、純粋に心の言葉をたよりに筆を握った。

本作に何が書いてあるのか、今となっては自分もよく覚えていない。ところどころに「ゆうじ」の文字が見える。
作品形態として当時憧憬のあった井上有一に近いことも恐れず付則しておきたい。現代書を志すと、誰もがみる「井上有一」という言葉。今思えば、若かったとしか言いようがない。だが、短絡的に導いたわけでもなく、弟の存在と事故、兄弟の証明にこの表現は必然でもあった。文字の羅列による製作法は二度と用いないだろう。その臭みが、どうも好かない。

幼い頃は、喧嘩の絶えない兄弟だった。互いに気が強く、どうしようもないほどに存在を主張し合った。喧嘩はその確認であったとも思う。

そのぶん仲が良く、かわいいゆうじだった。

男兄弟に恵まれて良かったと思う。

 

兄弟いつも仲良く。 母の願いでもある。