書家 小野﨑啓太

書の哲学Ⅰ~書のみかた⑤~

2018.1.16

書の哲学Ⅰ~書のみかた⑤~

今日は、二人に登場してもらい、ちょっと哲学をしてもらいます。
「書道」作品。
書道を習いたての、ひとり。 書道なんて知らない、その友人のひとり。
初めて書道作品について議論を交わします。 もちろん架空のふたり。

「書のみかた⑤」 何かのヒントになるでしょうか。

 

「書道作品」これを見てくださいよ。

―なんて書いてあるのですか?

「道」です。 どうですか。

―ああ、かっこいいです。これ、何で書いたのですか?

墨と、筆です。

―へぇ、高いんでしょう。

高いですよ。墨は〇〇〇〇円です。

―そんなにするんですか。墨は、どうやるんですか。

墨は、固形の墨と硯でするんです。

―いやはや大変な作業ですね、書道って。筆も高いんでしょう。

そうですね、私は安筆しか使えませんが、高い筆もあるらしいです。

―そうですか。あれ、ところで、なんて書いてあるんでしたっけ?

「道」ですよ。

―あぁ、「道」ですか。私は、ちっとも分かりませんし、読めませんから、忘れますね。

あーそうです、読めませんね。実はこれは、草書っていう書体らしいです。

―そうですか、草書ですか。これは。

自分でもたまに読めなくなりますからね。やっかいなもんです。

―じゃあ読めるように書いたらどうなんです?

そうですね、そいつは「楷書」ってやつなら読めるでしょう。

―それです、それで書きましょう。

いい案ですね、こんど、「楷書」を習ってきましょう。

 

ほら見てください。これならどうです。今度は「光」。 読めるでしょう。

―読めます読めます。 これなら誰が見ても。

でもなんだか難しいものでしたよ。

―そんなことないでしょう、だって誰だって読めるんです。この前のがほら、難しい。

そうですね、読めた方が、簡単ですよね。

―ええ、そうですとも。

「魑魅魍魎」これはどうですか。楷書です。

―素晴らしい。でも、なんて読むんですか?

「ちみもうりょう」です。楷書なら読めると言ったじゃないですか。笑

―いや読めませんでした。そういう場合もありますね。どんな意味ですか?

・・・・じゃあ、どうです、ちょっと批評をしてほしい。

―批評ですか。いや難しい。 きっとここのバランスがこう、もっと、右に、いや左に?こうあったら、どうです?

あーそうですね、確かにその方が、きれいだ。

―きれいでしょう。ここんとこはもうちょっと、太くしたらどうです。
あーそうですね、確かにその方が、美しい。もう一度書いてみましょう。

・・・これでどうです!?

―そうともそうとも!そのほうが、きっとに、読みやすい。

いやぁありがとうございます。

―これはこれは、ほんっとうに、パソコンで打ったような文字ですな。もうパソコンで打ったらどうですか。

え?作品をですか

―ええそうです。墨とか筆とか、ご面倒でしょう。

いやぁそれでは、書道をやる楽しみがないです。

―ああそうですね、それはいけない。ならどうですか、パソコンで打った字を大きくして、なぞる。

それは!思いもよらなかった。それならすぐにうまくなりますね。

―そうです、きっときれいに書けます。

どうですか!

―見事にパソコンのような文字です、素晴らしい。これなら、誰が見ても読めるしきれい。

最近は、パソコンの将棋も人に勝つらしいですからね。

―そうですね、これからは書道もパソコンに習えばよいのですね。

いやぁ時代は進みました。

―進みましたね。

今日はこれを見てくださいよ。

―「道」ですね。

「道」です。

―美しいですね。パソコンのようです。でもどうしたもんか、何か足りない。

何か?とは。

―君らしさ、ではないですか?君らしさがない。

僕らしさですか。じゃあこうしたらどうですか。 えい! :「道」最初の点を四つにしました。

―おお!これなら君らしい!

ついでにこうはどうです! そりゃ! :「道」最後のしんにょうを限りなく伸ばしてみました。

―おお!これまた君らしい!

ありがとうございます!

―さすがは大書道家ですね。でもこれ、ちょっと読めなくありませんか?

そうですねぇ。文字が読めなければやっぱり駄目ですね。

―今度は色でも使ってみたらどうです?

いやいやそれはいけないでしょう。書道は白と黒と決まっています。

―そうですか。誰が決めたんでしょうね。

それは、ちょっとわかりませんが。パソコンの字も白と黒でしょう。その方が見やすいです。

―そういうものですかね。

なんでパソコンの字は、見やすくて、きれいなんでしょう?

―それはパソコンですから。

パソコンの字がきれいなのか、私たちがパソコンの字をきれいだと認識しているのか、どちらですか?

―きっと、どちらもですよ。

「きれい」の概念ってなんなのでしょう。パソコンの字にちかづくほどきれい?

―これまでの話の流れからくると、そうだと思います。笑

でも昔からパソコンはないですよね? 昔はどうやって、きれいとかそうじゃないとか、わかったのでしょう?

―確かに。そうしたら、書道作品でいう「きれい」もパソコンに影響されたのかもしれませんね?

もともと私たちが使っていた文字があって、それをパソコンに取り込んだ。つまり、パソコンの字は二次的なもの。なのに、今はパソコンの文字を「きれい」の基本としている。

―なるほど。なんだか逆転現象ですね。待ってください、私たちの使っていた文字?ってなんですか? 昔の文字?

うーん、書道は勉強中でよくわからないですけど、昔の文字ですよね。それはどこからきたのだろう?

―たしか中国とか、ですか。

そう。古い文字をお手本にしてパソコンの字を作ったわけでしょう。だったら古い文字も「きれい」ですよね?

―そういうことですか。でも私は、古い文字をあまり知りません。

私も知りません。少し見たことはありますが、全然読めませんよ。 読めなければ、きれいではないですよね?

―ではやはり、今はパソコンの方が「きれい」なのですね。

そうかもしれませんね。書道の良さって、なんなのでしょう?やっぱり、パソコンには勝てないのですかね。

昔はみんな、手書きだった。だとしたら、頭の中にも手書きの文字があったのですよね。

―そうですね、私たちは、パソコンの字が頭の中にありますね。

うーん、昔とは違うのですね?なんだか、自分たちの脳みそがパソコンになってきているような気がしますね。笑

―じゃあ、手書きって、いまの私たちには必要ないのではないですかね?

そうですね。きれいに書くだけなら、パソコンがある。必要ないみたいですね。でも、きれいに書いてみたいし、自分らしくもしてみたい。

―やれやれ。難しいですね。

文字を書く意味ってなんでしょう?

―それは・・・伝えるためですよ。

でも今は、パソコンがある。さっき話しましたよ。笑 今日みせたこの「道」。

―ええ、伝わりました。「道」ですよ。

伝わったのかな。・・・やっぱりわからないな。書く意味は、なんなのでしょう。