書家 小野﨑啓太

「居」 書作品

2018.6.19

「居」 書作品

「居」 2018年栃木県書道連盟展出品作

70cm×70cm

 

木簡の中にこの字形がある。「居」の中の「古」字横書くを外側に大きくはみ出し、交差させた形がなんとも面白いと感じ、作品としてみた。

使用した墨は昭和十四年製・和田栄寿堂「蒼壁」。 硯は端渓老坑。
紙は紅星牌。

その割にはあまり滲みはなかった。 紙との相性かなとも思うが、栄寿堂の墨はいくつか試したものの、あまり強い滲みはない。そういうものだろうと思っている。
ずいぶん昔に栄寿堂は店をたたんでいるため、栄寿堂の墨を見かけることは昨今は少ない。

発色がよく、墨本来の色、淡墨でもはっきりとした強い印象を残すことが栄寿堂の墨の良さだと思う。
今その製法を受け継ぐ人はいないと思うが、鈴鹿墨進誠堂の先代が栄寿堂で修行したということを聞いた。

唐墨にも、現代の和墨にもない、貴重な色合いだと思う。

 

作品は常に違う世界観を求めてこそ作品として一つ一つが自立するものと考えている。

作中の余白に主眼を置き、表情を出すことを心がけた。
新しい筆を使って書いていたが行き詰まり、 古い、使い慣れた最高級の筆を使用したところ
この作になった。

筆は何より重要だと感じた。一画目途中の破筆(かすれ)が作品を作ったと感じる。

書は、存在。 「居」 になっただろうか?

「居」字

象形では「古」は「固」に通じ、そこにしっかりと座る、居るの意を表す。

「尸」はご存じのとおり「しかばね」と読み、人の遺体、人の横たわる姿を現す。ちょっと怖い。
しかし、屋根を表す「广(まだれ)」との混用と考えられ、人が家の中に「居」ることを表すものである。