愛用の硯(すずり)。
長さ30cm以上の比較的大型の
『端渓硯』 (たんけいけん)です。
中国広東省で採掘される石からできた硯。
書道に少しでもかじったことがある方や、骨董に興味のある方なら言わずと知れた硯の王様と呼ばれる端渓です。
昨今、書道教室や小学校の授業で使う硯には、セラミックの物が主流。セラミック硯は20年ほど前からありますが、今や 硯はプラスチックの容器 と思っている方も多いですね。少し残念なことです。
もちろん、硯は「石」です。
これが石でなくてはならない理由は、墨の発明が先だったことです。
中国の漢の時代の頃、煤を丸めて作った墨丸というものが発明されました。
次第に製墨技術が進み、墨は軽く堅く乾いたものになります。
固形の墨です。 墨を筆記具として持ち歩くことや保存には便利になりましたが、
それをどう液体にするかは苦心したようです。
砕いたりして使っていたこともあるとか。
そこで編み出されたのが、石に水をのせて、墨を「する」ということ。
様々な「石」と「墨」の相性が試されたのでしょう。
硯となる石の目にある鋒鋩(ホウボウ)と呼ばれるデコボコが、墨と擦れたときに、墨がどのような粒子となって水に溶けるか。その鋒鋩が細かすぎてもすれず、荒すぎても墨はよどんだものになります。
実用的に墨を擦ることができ、より速く細かく、墨の色を美しく出すものが求められました。
石の硯は唐の時代に普及したようです。
その後は中国の貴族文化・文人文化と共に発展し、
筆記具でありながら工芸品でも美術品でもある「硯」の価値を不動のものにしていきます。
代表的な物にこのような「端渓硯」
「歙州硯」 「澄泥硯」 があり、三大名硯となっています。
おなじ端渓硯でも、どこで採掘されたかによってさらに区分けもあります。
老坑 坑仔巌 麻仔坑 宋坑 というようなランク。
老坑 坑仔巌についてはかつての需要過多により採掘が進み、現在では閉山されているとのこと。
かなり高い値段になりますが、非常に価値の高い物であり、老坑については希少価値も高まっています。
良墨、良硯、丁寧に磨る。この三つができたとき、
墨はもう最高級のブランデーのような「輝き」と「とろみ」と「香り」を持ちます。
天然石であるから、全ての硯は一点物。 同じ硯材であっても、全く同じものはない。
一度、手に取ってみてください。